自律分散協調型組織を成り立たせる上で、最も重要なこと。それは人間を信じて管理を手放すことにあります。言うのは簡単ですが、この「手放す」という行為は、経営者にとって想像を絶する苦痛を伴います。にもかかわらず、経営者という立場になったことのない人にはピンとこないため、孤独の中で苦しみもがかねばなりません。

私も今では、どうにかこうにかこの「信じて手放す」を少しなりとも実践できはじめていますが、最初のころは、それはもう苦しみの連続でした。

顕著な例でいうと、ある日、とある社員が当社の昔からの優良顧客の対応業務について「申し訳ないが、どうしても乗り気にならないので、やりたくない。」といい始めたことがあります。理由としては、単純作業系の業務であったため、やる気が起きなかったようです。

今振り返って正直に言えば、そのときは頭にきました。どれだけわがままなんだと。仕事なんだからやれよと。そのために給与を払ってるのに・・・。このあたりは、経営者の方は特に共感いただける感情かと思います。

しかし、自律分散協調型組織を実践する上では、個人の意思を尊重するのがきわめて重要だと、頭では分かっていたため、その怒りをぐっとこらえながら、「そうか。やりたくないのなら仕方がないね。ではどうしようか?」と返しました。そうしたら、外注に出したいと。そこで、わざわざその業務をお金を払って外注パートナーに出すことにしました。

もし、この出来事がここでおしまいだったら、もしかしたら私のこの組織にかける想いは折れていたかもしれません。ところが、この後驚くべきことが起きました。なんと、そのわがままを言いだした彼が、それ以外の業務をものすごい集中力と速さで次々にこなしたのです。しかも、積極性は以前よりも遥かに増し、いろんな場面で自ら「それは僕がやりますよ!」と言い出しました。

なるほど、人間は自分の意見が認められたら、その分恩返ししたくなる生き物なんだなと気づきました。そして、結局、わがままを聞いたマイナスよりも、はるかに大きなプラスが返ってくるんだなと。。

その後も色々ありました。「社会貢献性が感じられない案件は受けたくない」とか「儲からなくても好きな案件はやりたい」とか「目標を持ちたくない」とか「社長のために働いてる気がするので報酬条件を変えてほしい」とか、一時的に赤字になって緊急対策が必要なときに、会議中に延々と自分の恋愛の悩みを話しはじめる者もいますし、企業訪問時にドキドキしてしまうぐらいの奇抜な服装や髪形をする者など・・・数え上げたらきりがありません。

そして、それらをすべて認め、受け入れるたび、私の中での「手放す力」が向上していったのです。なぜなら、毎回毎回必ず、受け入れたマイナスよりもはるかに大きなプラスが訪れることを私は体験の中で覚えてしまったからです。それだけでなく、私の中から、「管理しなければ!」という焦りやイライラを消してくれました。私に穏やかな毎日をプレゼントしてくれたのです。

びりかんの組織創りは、一見すると管理型の経営者を糾弾して従業員を救いたい、というように映るかもしれません。しかしそれは大きな間違いです。私は自社の活動を通じて、多くの経営者が、もっと恐れることなく管理を手放せるように、そして多様性を受け入れやすくなることを望んでいます。それは、世の中の経済を誰よりも牽引し、必死になって頑張っている経営者こそ、本当に幸せになってほしいからです。

経営者もハッピーに。
従業員もハッピーに。
その周りの家族もハッピーに。
町も国も世界もハッピーに。

いつか大きな幸せのうねりを創り出し、ありとあらゆるものを幸せにしたいと本気で考えています。
そしてそれは私自身の大きな幸せにつながっていると信じています。